自己愛性人格障害とは
一見「自分大好きな人たち」という印象を与えがちな名称ですが、「ありのままの自分を愛せない」障害です。
心の底には強い劣等感、コンプレックス、自己無価値感が渦巻いており、もろく崩れそうな自尊心を「自分は万能で特別な存在だと信じること(自己暗示)」「他者から肯定的に評価されること」「優越感を得るため
身近な弱者を貶め見下すこと」で維持しています。
そのため賞賛・注目・感謝・愛情を求める行動に駆り立てられ、些細な否定に怒り、特別扱いされることを求め、外では理想の自分を演じる一方で、
絶えず身近な弱者を否定し傷つけること(モラハラやDV)で精神のバランスをとっています。
ターゲットは強い不快感を感じた身近な弱者から選ばれる
●思い通りにならず不快感を感じた人(パートナー、部下など)
他者からの否定的な反応に強いストレスを感じるため、テリトリー内の身内には逆らわず自分の思い通りに動くことを期待する。言いなりになる関係を求めモラハラが始まり、自信を失わせ不安な状態に置こうとする。
●自分より褒められていて不快感を感じた人(職場の同僚、友人など)
無関心と死の恐怖が結びついているため、注目されることに命をかけている。能力があり自分より目立つ可能性のある人は生存を脅かす敵と認識して攻撃対象となる。
自己愛性人格障害の人は、一見自分大好きに見えますが、実は自信がない(自分が嫌い)ので人からどう思われるかを異様に気にしています。
人の評価に左右されてその場しのぎの対応をするので自我(これが自分という核のようなもの)や個性がなく、自分の好きなモノややりたいことすらはっきりしません。
器が小さく些細な批判ですら受け入れられないので、
文句を言われると相手をおかしな言いがかりをつけてきた悪者に仕立て上げ、逆恨みします。
身近な人を道具のように利用し、利用価値がなくなれば捨ててしまう
自分が目立つためや願いを叶えるために
平気で人を利用します。家族や子供ですら自分の自尊心を満たすための道具となります。
周囲の人間を自分をよく見せるための引き立て役にしたり(相手のダメなところばかりを吹聴して相対的に自分をよく見せる面倒見の良い自分を演出するための道具にする)。
普通の人は利用されていることに気づいて離れていきますが、共依存状態にある人は相手のずるさにあえて目を伏せ、尽くし続けてしまいます。
しかし他者は特別な自分のための道具や奴隷だと思っているので感謝することはなく、利用価値がなくなれば簡単に捨ててしまいます。
→ 人を利用する
人間関係を自分より上か下かと利用価値でしか見ない
結局、本当の意味で加害者の世界に「他者」は存在していないのです。彼らの世界に存在しているのは、「自分という特別な存在」だけ。他者と人間関係を持つにしても、それは自らの自尊心を支えるために人を利用しているに過ぎません。
必要としているのは、自分の無価値観を克服してくれる、雑用を処理してくれる、という利益をもたらしてくれる関係性であり、
利用価値がなくなったり思いどおりに動いてくれなければ興味を失い、新たな搾取相手を求めます。
自分とは違う考えや価値観をもった他者を尊重し、対等な一人の人格として認め、心を通い合わせ、思いやりを持ったり感謝する能力が乏しく、
信頼し合った関係を持つことができません。
→ 自己愛者の人間関係
上司や先輩:自分を引き立ててくれる利益性
取り巻き:賞賛や感謝を捧げ、優越感を感じさせてくれる自尊心を支えるアイテム。褒めない、感謝が足りない、優れている部分があり嫉妬心を感じさせる相手は利益にならないので取り巻きになれない。無能なイエスマンなら寵愛を受けられます。
自分の非を受け入れられず正当化する
ダメな自分、悪い自分は親から見捨てられて死んでしまう、という不安が根底にあり、自分の非を認められません。
相手に責任を押し付けたり侮辱したり、記憶を改ざん・消去してまででも自分を正当化します。
◆医学的見地での自己愛性パーソナリティ障害(narcissistick personality disorder)とは
誇大性と共感性の欠如は原始的攻撃性に対抗する防衛機制で、誇大性は一般に劣等感の代償と考えられている。
自己愛性パーソナリティ障害の患者は、自己の重要性について、空想、実生活を問わず、尊大な感情を有している。患者は過度の賞賛を必要とし、共感性を欠き、慢性的で激しい羨望を持つことが多い。
批判や敗北に上手く対応できず、憤怒または抑うつをきたします。自尊心と対人関係の脆弱さが明らかである。
【鑑別診断】
a.反社会性パーソナリティ障害 法律や他者の権利を露骨に軽視します。
b.妄想型統合失調症 明らかな妄想があります。
c.境界性パーソナリティ障害 患者の示す感情と不安定さはずっと強烈です。
d.演技性パーソナリティ障害 より感情を表に出します。
【治療】
精神療法
治療の進展のためには患者が自己愛と決別する必要がありますが、そのため治療はかなり困難です。
1.自己の重要性に関する誇大な感覚(例:業績や才能を誇張する
十分な業績がないのにもかかわらず優れていると認められる ことを期待する)。
2.限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空 想にとらわれている。
3.自分が"特別"であり、独特であり、他の特別なまたは地位の高い人達に(または団体で)しか理解されない、または関係がある べきだと、と信じている。
4.過剰な賞賛を求める。
5.特権意識、つまり、特別有利な取り計らい、または自分の期待に自動的に従うことを理由なく期待する。
6.対人関係で相手を不当に利用する、つまり、自分自身の目的を達成するために他人を利用する。
7.共感の欠如:他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない、 またはそれに気づこうとしない。
8.しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思い込む。
9.尊大で傲慢な行動、または態度。
【参考・引用文献】
・カプラン精神医学ハンドブック 融道男他訳 2010 メディカルサイエンスインターナショナル
・パーソナリティ障害がわかる本 岡田尊司 2006 法研