土曜日, 7月 21, 2012

住民の合意形成とは

東日本大震災の発生から500日になる中、住宅の高台への集団移転は進んでいない。住民の合意形成が難しいことが主な理由といい、国の認可が得られたのは想定の2割。一方で民間による高台の分譲住宅が人気を呼び「このまま時間がたてば若い世代が流出し、地域がばらばらになる」との懸念が出ている。  ◆想定の2割  全てが流され、がらんとした空間が広がる岩手県陸前高田市。高台では分譲地が造成され住宅会社の青いのぼりがはためいていた。20区画の一部は「○○様邸新築工事」という看板が並び、建物が組み上がる。  開発する住宅会社「東日本ハウス」(盛岡市)によると、昨年11月に9区画を売り出し即日でほぼ完売。その奥の山林を追加造成し来月末にも11区画を販売予定だが、宣伝前から4区画が申し込み済みという。  同社一関(いちのせき)営業所の野場靖紀所長(39)は「行政は非常に頑張ってくれているが、購入者の大半は『行政の動きを待っていられない』と、一刻も早く仮設住宅から抜け出したいとの思いを持っている」と話す。  国土交通省によると、国の「防災集団移転促進事業」により高台への集団移転が想定されるのは岩手、宮城、福島3県の24市町村で245地区。このうち「大臣同意」と呼ばれる国の認可が得られたのは今月9日時点で3県11市町村の47地区にとどまる。  行政手続きに時間がかかるためや、移転先の山林で埋蔵文化財の調査が必要な場合もあるというが、最大の理由は合意の難しさ。陸前高田市は8地区が想定されるが、認可はまだない。市復興対策局は「被災範囲が広い上、高台の適地が少ないため、住民の合意がまとまらない」と説明する。  ◆自主再建で  集団移転の決まった地区は、比較的小さな集落が多い。宮城県気仙沼市の半島部にある小鯖(こさば)集落は今月2日に認可を得た。集落の高台にある畑地1万5千平方メートルを確保し、被災53世帯のうち8世帯が集団移転、20世帯が同じ敷地に建てられる災害公営住宅へ入居する。残りは元の場所をかさ上げしたり、市内の別の場所へ土地を求めたりして自主再建するという。  自治会役員で洋品店主、鈴木茂さん(57)は「昨年11月に意向を聞いた際は大半が地元へ住み続けたいと答えたが、時間を追うごとに別の土地での自主再建を急ぐ人が出てきた」と話す。国の認可を受け、市は移転先の用地買収や宅地造成など具体的な作業に入る。鈴木さんは「ほっとしているが、まだ細かい話をしていかなければならない」。21日も仮設住宅の談話室へ集まり話し合った。  東京都内のコンサルタント会社から宮城県の沿岸自治体へ派遣され、移転事業に当たる男性は「小さな浜など地域の結びつきの強い集落は比較的進んでいるが、市街化された地域は道筋の立たない地区が多い。こうした地区は被災者も多く課題となっている」と話す。 【用語解説】防災集団移転促進事業  自然災害などで被災した土地の住宅を集団で移転させる事業。5世帯以上が原則。自治体が移転先の宅地を造成し、道路や水道などを整備した上で被災者へ譲渡、賃貸する。強制力のない任意事業のため住民の合意が必要。事業費は東日本大震災の場合、復興交付金などで国が全額負担するが、住宅の建築などは自己負担。防災が目的のため、元の土地へは戻れなくなる。

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